自己託送とは|3つの種類やメリット・デメリットを解説

2024.05.31
ESGSDGsカーボンニュートラル再生可能エネルギー太陽光発電環境価値
自己託送とは|3つの種類やメリット・デメリットを解説

自己託送とは、遠隔地にある自社の発電設備で発電された電気を自社設備に送電する仕組みのことです。工場などの敷地内に太陽光発電システムを設置できるスペースがない場合でも、自己託送の仕組みを活用することで、自社製造の電気を使えるようになります。

この記事では、自己託送とはどのようなものであるのかについて、詳しく解説します。さらに、自己託送のメリット・デメリットや、自己託送の種類についても紹介するため、ぜひ参考にしてください。

自己託送とは

自己託送とは、資源エネルギー庁「自己託送にかかる指針」資料によれば「自家用発電設備を設置する者が、当該自家用発電設備を用いて発電した電気を一般電気事業者が維持し、及び運用する送配電ネットワークを介して、当該自家用発電設備を設置する者の別の場所にある工場等に送電する際に、当該一般電気事業者が提供する送電サービス」とあります。

簡単に言えば、遠隔地に自家発電設備として太陽光発電所を設置、電力会社が保有する送配電ネットワークを利用し、発電した電気を自社保有物件へ送電するモデルです。

2013年11月公布「電気事業法の一部を改正する法律」で制度化されました。

参考:経済産業省 資源エネルギー庁「自己託送に係る指針」

この自己託送では「生」再生可能エネルギーの調達が可能であり、RE100においても新しい再エネの創出(追加性)が評価される事で、RE100加盟企業等から注目を集めています。

自己託送で送電する電気は、送配電事業者の送電ネットワークを介して送電するため、送電コストが発生します。託送料金は電力会社や契約種別により異なり、東京電力の場合は以下の料金になります。

  • (従量接続送電サービスの場合、2021年1月時点)
  • 低圧電灯:10円97銭/1kWh
  • 低圧動力:16円71銭/1kWh
  • 高圧:11円45銭/1kWh
  • 特別高圧:7円52銭/1kWh

自己託送の種類

自己託送による電力供給は自社のほか、密接な関係と認められるグループ企業間など、送電可能な場所が限られています。ただし、一部例外的に電力を供給できるケースもあるため、自己託送を利用する前に把握しておきましょう。ここでは、自己託送の3つの種類を紹介します。

自社所有型自己託送

自社所有型自己託送とは、自社で発電した電力を自社の複数の拠点に供給できるシステムのことです。遠隔地にある倉庫や工場など、自社所有の施設に再生可能エネルギーである太陽光発電設備を設置して電力供給を行います。

中には、賃貸によって発電設備を所有し運用する企業もありますが、基本的には自社所有の施設に自家用の発電設備がある状態です。発電した電力の所有権は自社が保有するため、電力は無料で使用できます。ただし、電力の送電は一般送配電事業者が所有する送配電システムを利用するので、送電線使用料金の支払いは必要です。

グループ企業内型自己託送

グループ企業内型自己託送とは、自社で発電した電力をグループ企業に送電できるシステムのことを指しています。グループ企業として認められるのは、下記に挙げる資本や人材などの面で「密接な関係」と判断される企業間のつながりです。

1 他企業への代替が難しい原材料・製品などの受け渡しがある場合
2 親会社と子会社、もしくは同じ親会社をもつ子会社同士の場合
3 一方からもう一方の企業へ、過半数の役員の派遣がある場合
4 上記1~3で条件を満たせなくても、複数の組み合わせで密接な関係と判断できる場合
5 上記1以外で原材料などの提供が長期的・継続的に行われており、1つの企業と判断できる場合

グループ企業と密接な関係があると認められるには、上記の要件をクリアする必要があります。無条件での送電は認められていない点に注意しましょう。

組合型自己託送

組合型自己託送は、発電設備をもつ所有者と電力の供給を受ける施設の所有者が異なる場合でも、組合の設立によって自己託送が行えるシステムのことを指しています。「電気事業法施行規則」が2021年に改正されたことにより、実施可能となった自己託送の種類です。組合型自己託送を活用するには、すでに自己託送を利用している企業が、追加で発電設備を新設しなければならない点に注意してください。

また、組合が長期にわたって存続することや電気料金の決定方法、工事費の負担に関して組合契約書に明記しなければなりません。ほかにも、組合型自己託送を利用する上での要件が複数定められているため、導入の際は詳細の確認が必要です。

自己託送のメリット4つ

自己託送をすると、遠隔地にある自家用発電設備で発生させた太陽光発電の電力を、自社所有の施設やグループ企業などに供給できるようになります。地球環境に配慮したエネルギーを利用する自己託送は、多くの企業から注目を集めるシステムです。ここでは、自己託送のメリットとして代表的なものを4つ紹介します。

CO2排出量を削減できる

自己託送した電力の消費は、自家消費と同じ扱いです。カーボンニュートラルへ向けて自家消費を増やしたいけれども、需要地の条件によってはオンサイトで増やすのが難しい場合もあります。

たとえば、以下のような場合はオンサイトで発電量を確保することが難しいです。

  • 自社の建物、敷地内への太陽光発電の設置容量にも限界がある
  • 海岸線に近く、塩害対応が必要である

離れた場所に所有する発電設備から自己託送をすることで、自家消費量を増やしたり、拠点間で融通したりできます。このような取り組みにより、企業やグループ全体のCO2排出量を削減し、再エネ比率を高めることができます。

電力コストを削減できる

コスト面で注目したいのが、再エネ賦課金です。自己託送は、自家消費と同じ扱いですので、再エネ賦課金は必要ありません。

2020年度の再エネ賦課金は1kWhあたり2.98円で、今後しばらくは上昇する見込みです。自家消費分の電気使用量については、再エネ賦課金コストを削減できるメリットがあります。

発電条件の良い場所に太陽光発電設備を設置することで、発電コストや管理コストを抑えることができれば電力コストの削減につながります。また、将来の電気代上昇リスクを抑えることが可能です。

施設内にパネルを設置できない場合でも太陽光発電を導入できる

自己託送は自社の敷地内に発電設備の設置スペースがなくても、敷地外の施設を利用することで太陽光発電を導入できる仕組みです。敷地外の発電設備は自社との関係性が深い施設への設置に限られますが、設置スペースの問題で太陽光発電を諦めていた企業も、自己託送により導入を検討しやすくなります。

既存施設の屋根の形状がソーラーパネルの設置に向かない企業や、沿岸部に位置するため塩害による発電設備への悪影響が懸念される企業は珍しくありません。それらの理由により敷地内への太陽光発電の設置が難しい企業でも、自己託送を活用すると敷地外の施設を利用でき、発電設備の設置場所を確保しやすくなります。

無駄なく余剰電力を活用できる

自社保有の発電設備を設置した場合、施設の稼働状況により発電した電力を自家消費しきれず余剰電力が生まれるケースがあります。自己託送によって発電した電力は、自社の企業ビルや工場・倉庫などの複数か所に送電できるため、余剰電力を無駄にせず活用が可能です。たとえば、企業ビルが定休日で電力を消費しない間は、稼働中の自社工場に供給することで無駄なく余剰電力を使えます。

自己託送とは異なるオンサイト型の太陽光発電では、余剰電力を十分に活用できない場合があります。自己託送であれば、自社施設のいずれか1か所での自家消費が難しい場合でも、有効な電力の活用が可能です。

自己託送のデメリット・注意点3つ

企業にとってさまざまなメリットがある自己託送ですが、いくつかデメリットや注意点があるのも実状です。どのようなポイントがデメリット・注意点となるのか事前に把握し、自己託送による太陽光発電設備を導入するかどうか総合的に判断しましょう。自己託送のデメリットや注意点は以下の3つです。

計画値の提出が必要になる

自己託送を利用する際は「計画値同時同量」制度に従わなければなりません。30分ごとの電力の需要と供給量を予測し、その予測値を電力会社である一般送配電事業者に提出します。電力の需要と供給のバランス維持や、電線などの送配電ネットワークを使用したスムーズな送電に欠かせない制度ではありますが、利用者の手間になるのがデメリットです。

太陽光発電の出力や電力の使用状況などを日常的に把握するのにくわえ、予測値の精度向上も欠かせないため、一定の負担が発生する可能性があります。

導入費用が高い

自己託送は低圧の発電所でも利用できるものの、CO2排出量と電力コストの大幅な削減を図る場合、規模の大きな発電設備が必要です。発電設備の規模が大きくなると、設置工事や材料費などにかかる導入費用が高くなるため注意しましょう。現状、敷地外に発電設備を設置できるような施設・場所がない場合は、新たな土地の購入や造成などの開発にかかる費用も発生します。

ペナルティを課せられる可能性がある

「計画値同時同量」制度に従い提出した予測値と実際の数値が異なる場合、ペナルティを課せられる可能性があるため注意してください。ペナルティは「インバランス制度」によって定められており、予測値と実際の数値の差分をインバランス料金として追加で支払わなければなりません。

予測値と実際の数値に差があると、安定した電力供給ができなくなる恐れがあります。自己託送の利用者は安定した電力供給に影響を及ぼさないように、またペナルティを避けるために、精度の高い電力需給の予測が必要です。

まとめ

自己託送の仕組みを使って太陽光発電システムによる電気を利用することで、企業はさまざまなメリットが得られます。CO2排出量の削減に貢献できるだけではなく、電力コストの削減・余剰電力の活用などにもつながります。

一方で、導入費用やペナルティなどの面で、自己託送による電力を利用する場合は注意しなければなりません。メリット・デメリットを比較・整理しつつ、自社にとって最適な電力の調達方法について検討しましょう。

参考資料

※1:自己託送に係る指針 2014年4月1日 資源エネルギー庁

※2:再エネ調達方法⑤ コーポレートPPA(バーチャルPPA) 2021年2月9日 ホールエナジー