再エネ特措法(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法)は、再生可能エネルギーの普及を目的とした法律です。再エネ特措法は、再生可能エネルギー事業へ企業が積極的に参加することを促しており、2023年には法改正も行われました。
当記事では、再エネ特措法の目的やFIT・FIP制度の概要、対象となる再生可能エネルギーの種類などを詳しく解説します。再生可能エネルギーに関する動向について詳しく知りたい方はぜひ当記事を参考にしてください。
再エネ特措法とは?
再エネ特措法の正式名称は、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」です。従来の「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」の後継として、2011年8月に成立し、2012年7月から施行されています。
再エネ特措法の主な目的は、再生可能エネルギーの普及促進です。再生可能エネルギーで発電した電気は、一定期間、国が決まった価格で買い取る仕組みが設けられました。期間限定ではあるものの、安定した収益を見込めることで各企業の積極的な参加を期待しています。
再生可能エネルギーのさらなる利用促進を狙い、再エネ特措法は2023年に改正され、2024年4月1日より新しい改正内容が施行されました。
出典:e-Gov 法令検索「平成二十三年法律第百八号 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」
再エネ特措法のFIT・FIP制度とは?
再エネ特措法では、再生可能エネルギーの普及を促進するために、FIT制度(固定価格買取制度)と市場連動型のFIP制度(プレミアム価格制度)という2つの制度を定めています。
FIT制度は、再生可能エネルギーで発電した電気を、一定の価格で一定期間買い取ることを国が保証する仕組みです。収益の安定化により、高い建設コストを回収する見通しが立ちやすくなれば、発電事業者が参加しやすくなります。電力会社が買い取る費用の一部は、電気利用者から賦課金として集められ、再生可能エネルギーの導入を支える役割を果たします。
一方、市場連動型のFIP(Feed-in Premium)制度は、2022年度から導入されました。
FIP制度では、再生可能エネルギーの電力を市場で取引し、基準価格から市場価格を控除したプレミアム価格が発電事業者に支払われます。FIP制度の特徴は、電力市場の価格変動に応じて収益が変わる点です。市場価格が高ければプレミアムは減少し、低ければ増加する仕組みです。
FIT制度は安定した収益を提供しますが、FIP制度は市場価格に依存するため、より柔軟な運用・経営が求められます。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「制度の概要 FIT・FIP制度」
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「再生可能エネルギー FIT・FIP制度ガイドブック2024」
対象となる再生可能エネルギー
再エネ特措法の対象となる再生可能エネルギーには、以下の5つの種類があります。
太陽光発電 |
太陽の光を直接電気に変換する方法です。設置場所や天候に依存しますが、クリーンで枯渇する可能性がほぼありません。 |
風力発電 |
風の力で風車を回転させ、その回転運動を電力に変換します。風が強いエリアで効率的に電力を生成でき、再生可能エネルギーの中でも大規模な発電が可能です。 |
水力発電 |
河川やダムの水流を利用して水車を回し、電力を生み出します。安定した電力供給が可能で、発電効率も高いのが特徴です。 |
地熱発電 |
地下深くの熱水や蒸気を使ってタービンを回し、電力を生成します。地熱資源が豊富な地域なら安定したエネルギー供給が可能です。 |
バイオマス発電 |
動植物などの生物資源を燃料に発電する方法です。廃棄物を有効利用でき、カーボンニュートラルなエネルギー源とされています。 |
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「制度の概要 FIT・FIP制度」
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「総論 再生可能エネルギーとは」
再生可能エネルギー発電促進賦課金とは?
再エネ特措法が施行される背景
日本の発電電力量のうち、再生可能エネルギーが占める割合は、2022年度で約21.7%となっています。内訳は水力が7.6%、そのほかの再エネが14.1%です。再エネの普及は進んでいるものの、依然として天然ガス(34%)や石炭(31%)への依存が大きい状況で、これらの割合を減らすことが課題です。
再生可能エネルギーには、エネルギー自給率の向上やCO2排出削減、新たな産業創出といったメリットがあります。しかし、発電コストの高さや電力の安定供給、系統網の強化、地域との共生などの課題も少なくありません。
政府は、2030年度までに再生可能エネルギーの比率を36~38%に引き上げる目標を掲げています。
この目標達成には、適地確保・技術開発・コスト低減・収益安定化のための制度整備が必要です。再エネ特措法は、こうした目標達成に向けた取り組みを支えるために設けられました。今後の再生可能エネルギーの普及、および持続可能なエネルギー供給と地域経済の活性化に大きな役割を果たすことが期待されています。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「総論 再生可能エネルギーとは」
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「再生可能エネルギー FIT・FIP制度ガイドブック2024」/
令和5年度の再エネ特措法の改正ポイント
再エネ特措法は2023年に改正され、2024年から新たに施行されました。この改正に含まれるのは、FIT/FIP認定要件の追加や太陽光パネルの増設ルールの見直し、違反時の交付金停止措置、認定事業者の監督義務の強化などです。次に、これらの改正ポイントについて解説します。
説明会等のFIT/FIP認定要件化
再エネ特措法の改正により、FIT/FIPの認定を取得申請する際、および取得済みの計画の重要事項を変更する際に、事業者は説明会の開催が義務づけられました。規模が小さい場合でも、事前にポスティングするなどの周知をしなければなりません。
この説明会では、再生可能エネルギーの導入計画や周辺地域・環境への影響について詳細な説明が求められます。地域住民や関係者の理解と協力を得ることを目的としており、透明性の向上と地域との共生を図るための措置です。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「令和5年度改正 FIT・FIP制度」
太陽光パネルの増設・更新に伴うルールの見直し
再エネ特措法の改正により、既存の再生エネルギー設備の有効活用を促進するための新ルールが制定されました。
今後は、太陽光パネルの部分的な増設や更新により新たに追加された部分には、最新の買取価格が適用されます。
たとえば、出力200kWの既存設備に50kW分のパネルを増設する場合、既存設備には従来の価格、増設部分には最新の価格が適用されます。また、古いパネルや設備の適切な廃棄処分も、特例を受けるための前提条件です。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「令和5年度改正 FIT・FIP制度
違反時のFIT/FIP交付金の一時停止
改正再エネ特措法では、事業計画に従わずに事業運営を行う認定事業者に対し、FIT/FIP交付金の一時停止措置が導入されました。これまで、事業計画に反して運営を続ける事業者も売電収入や供給促進交付金を受け取れていました。
改正後は違反が確認された場合、速やかに交付金の支払いが停止されます。認定が取り消されれば交付金の返還命令も出るため、事業計画に従った運営を強く促す効果が期待されています。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「令和5年度改正 FIT・FIP制度」
認定事業者の監督義務
再エネ特措法の改正により、認定事業者には当該設備の委託先事業者に対する監督義務が課されました。再生エネルギー設備の導入に際しては、設計・施工・管理・保守点検といった各工程を専門企業に委託するのが一般的です。認定事業者は自社内だけでなく、これらの委託先に対しても適切な監督を行わなければなりません。
これにより、全工程での品質確保と、安全で効率的な発電設備の運営が求められます。改正前からも重要視されていた監督義務がさらに強化され、認定事業者の責任が明確化されました。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「令和5年度改正 FIT・FIP制度」
まとめ
再エネ特措法は、再生可能エネルギーの利用を促進し、日本のエネルギー自給率向上やCO2排出削減を進めるための法律です。
2011年の成立以来、再生可能エネルギー発電の安定した収益を保証するFIT制度と、電力市場価格に連動するFIP制度を通じて、発電事業者の参加を後押ししてきました。2023年には法改正が行われ、認定要件の厳格化や太陽光パネルの増設ルール見直し、違反時の交付金停止措置、事業者の監督義務強化などが盛り込まれました。
今後も再エネ特措法の動向に注意しながら、持続可能なエネルギー供給と地域経済の活性化を推し進めていく必要があります。