ESG経営とは?意味・社会的背景・具体例を簡単に解説

2024.01.24
ESGSDGs

社会的意識の高まりとともに、社会に配慮した企業活動や持続可能性などが、投資家や消費者から重視されるようになっています。企業は、長期的に利益を上げるだけでなく、社会的責任を果たすことも求められ、ESG経営では環境、社会、ガバナンスの観点から自社の影響を考えなければなりません。

当記事では、ESG経営とは何かといった基礎的な情報から、ESG経営に取り組むメリット、ESG経営に取り組む企業の具体例などまで、詳しく解説します。

  カーボンニュートラルへ向けた、

企業が取るべき具体的アクションとは?

ESG経営とは?

ESG経営の「ESG」とは、「環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)」の頭文字を取った言葉です。

ESG経営とは、企業がこれらの要素を重視する経営手法を指します。

ESG経営の目的は、単に利益を追求するのではなく、環境や社会に対する責任を果たしながら、長期的な持続可能性と企業価値の向上を図ることにあります。

Environment(環境)

「Environment(環境)」とは、企業活動が自然環境に与える影響、およびその企業が環境保護にどのように取り組むかを指す概念です。

企業が環境に配慮することは、地球の自然資源を守り、将来世代のために健全な環境を維持するために不可欠です。

【取り組みの例】

  • 温室効果ガスの排出を減らすために、再生可能エネルギーの利用を増やす
  • エネルギー効率の高い技術を導入する
  • 廃棄物の量を減らすためにリサイクルを促進する
  • 製品が与えるライフサイクル全体での環境への影響を低減するために、持続可能な材料を使用する

環境に配慮した経営は、顧客や投資家からの信頼を得ることにもつながり、企業の評判やブランド価値を高める効果もあります。

Social(社会)

「Social(社会)」とは、企業が社会的責任を果たし、社会と良好な関係を築くことを意味します。

企業が社会に対して持つ責任を認識し、それを経営の中心に据えることは、企業の持続可能性や、社会問題の解決、社会全体の福祉向上などに貢献します。

【取り組みの例】

  • 従業員に対して公正な報酬や、健康と安全な労働環境を提供する
  • 社内のダイバーシティを推進する
  • 消費者の安全と健康を守るような商品・サービスを提供する

社会的責任を果たすことは、リスク管理の改善や長期的なビジネスの成功にも寄与し、企業価値の向上をもたらします。

Governance(ガバナンス)

「Governance(ガバナンス)」とは、企業が透明性があり責任を持った経営を行うための構造やプロセスを指します。

ガバナンスは、企業の持続可能性と長期的な成功に不可欠で、投資家や顧客、社会全体からの信頼を獲得するための基盤となります。

【取り組みの例】

  • 強固かつ独立した取締役会が存在する
  • 法令を遵守する
  • 透明性のある会計と財務報告体制が構築されている
  • 利害関係者とのコミュニケーションが確立されている
  • リスク管理とコンプライアンスの体制が構築されている

企業が良好なガバナンスを確立することは、単に企業統治・法令遵守の面を超えて、企業文化の改善、経営の透明性の向上、ステークホルダーとの信頼関係の構築にも寄与します。

ESG経営に注目が集まる社会的背景

ESG経営は、2006年の国連PRI(責任投資原則)によって、少しずつ認知が広がっていきました。ESG経営に注目が集まる社会的背景としては、大きく3つの点が挙げられます。

SDGsへの意識向上

ESG経営に注目が集まる社会的背景の1つとして「SDGs(持続可能な開発目標)への意識向上」が挙げられます。SDGsは、国連が2015年に採択した、2030年までに達成を目指す17の目標と169の具体的なターゲットから成る国際的なアジェンダです。SDGsは、貧困や飢餓の撲滅、質の高い教育へのアクセス、性別平等の推進、気候変動への対策など、幅広い社会的・環境的課題に取り組むことを目的としています。

SDGsへの意識の向上は、企業にとっても重要なトピックです。

企業の社会的および環境的影響は、より広い公共の利益と持続可能性に直結しています。

SDGsの枠組みは、ESG経営と密接に関連しています。企業がSDGsを意識し、それを経営戦略に取り入れることで、社会や環境に対してより大きな責任を果たすと同時に、新たなビジネスチャンスを見出し、イノベーションを促進できるでしょう。投資家や消費者も、SDGsに貢献する企業に対して高い関心を示しており、その結果、ESG経営への注目が高まっています。

ESG投資の普及

ESG投資とは、環境、社会、ガバナンスの3つの基準を考慮して、投資対象を選定する手法です。このアプローチは、従来の財務的なパフォーマンスだけでなく、企業の社会的および環境的影響も評価の対象とすることが特徴です。

【ESG投資が世界的に急速に普及している理由】

  • 投資家が単に利益を追求するだけではなく、持続可能性や社会的影響を重視するようになった
  • 多くの投資家は、ESG基準を満たす企業が長期的にはより安定したリターンを提供し、社会的なリスクに対して耐性があると考えている

企業がESG基準を取り入れることは、投資家にとって魅力的であり、資金調達の機会を広げる可能性があります。
また、ESGに基づく投資判断を行う投資家は、企業の環境や社会への取り組みを積極的に評価し、その成果を投資の判断材料としています。

経営リスクの多様化

VUCA時代において、経営に関するリスクは多様化しています。

VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、現代のビジネス環境の不安定さと予測困難さを表します。

【経営リスクの多様化の例】

変動性(Volatility)市場の変動、技術の進化、政治的・経済的な変化が速く、予測が難しい。
不確実性(Uncertainty)将来の市場動向や規制の変化など、不確実な要素が経営に大きな影響を及ぼす。
複雑性(Complexity)グローバル化により、ビジネスはより複雑な供給網や利害関係者のネットワークを持つようになっている。
曖昧性(Ambiguity)情報の不完全さや解釈の多様性が増加し、正確な判断が難しい。

ESG経営は、このようなVUCA時代のリスクに対応するための1つのアプローチです。

たとえば、環境(Environment)の観点からは「気候変動や資源の枯渇などのリスクに対応する」といったことが挙げられます。社会(Social)の面では「労働条件、人権問題、消費者のニーズ変化など、社会的な責任を果たすことで、各種リスクに対処する」といったことです。ガバナンス(Governance)では「透明性の高い経営やリスク管理を通じて、不確実性や複雑性に対応する」といった考え方が挙げられるでしょう。

ESG経営は、これらのリスクを軽減し、持続可能な経営を可能にするため、VUCA時代において企業にとってますます重要になっています。

ESGと似た用語:SDGs/CSR/SRI

続いて、ESGと似た用語・ESGと似たような文脈で使用される用語として、SDGs・CSR・SRIの3つを紹介します。それぞれの意味と、ESGとの違いについて押さえましょう。

SDGsとESGの違い

SDGsとは、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略称で、国連が2015年に採択した、2030年までに達成を目指す国際的な目標のことです。

SDGsは、経済的、社会的、環境的な持続可能性を統合的に考慮し、世界中の国々が共同で取り組むべき課題を示しています。

SDGsとESGの主な違いは、それぞれの焦点と対象にあります。SDGsは、国際社会全体が取り組むべき広い目標を提供し、国、政府、市民社会、民間企業、個人などが一丸となって協力して実現を目指します。

これに対し、ESGは企業の経営における環境、社会、ガバナンスの3つの側面に焦点を当てています。ESGは、企業が社会的責任を果たし、持続可能なビジネスモデルを構築するための枠組みです。

つまりESGは、企業がSDGsに貢献するための具体的な手段と見なすことができ、両者は持続可能な未来を目指す上で補完的な役割を果たしています。

CSRとESGの違い

CSRとは、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)の略称です。

企業が、社会の構成員として、企業活動を通じて社会に対して責任を持ち、持続可能な経済発展に貢献することを指します。CSRは、企業が環境保護、地域社会への貢献、従業員の福祉向上など、経済的な利益を超えた社会的価値を生み出すことを重視します。

一方でESGは、企業が直面するリスクと機会を評価し、持続可能性に基づく経営を促進するためのより具体的な指標として機能します

つまり、CSRは企業の社会的責任を果たすための広い概念であり、ESGは企業の持続可能性に対するより具体的で戦略的なアプローチと言えます。

SRIとESGの違い

SRIとは、社会的責任投資(Socially Responsible Investing/Investment)の略称です。

投資家が財務的リターンだけでなく、社会的、倫理的、環境的な基準を考慮して投資を行うことを指します。SRIは、企業の社会的な影響や持続可能性に焦点を当て、そのような要素を満たす企業やプロジェクトに資金を提供することが目的の1つです。

元々は、特定の産業(たとえば、タバコ、武器、アルコール、ギャンブルなど)や特定のビジネス慣行を持つ企業を投資対象から除外することがSRIの始まりと言われています。

ESGでは、企業が社会的責任と持続可能性の目標をどのように達成しているか、それが全体的なビジネスパフォーマンスにどのように貢献しているかにより重点を置いています。これに対し、SRIはより古くからある概念・アプローチであり、特定の倫理的基準に合致するか否かに基づいて投資を行うのが特徴です。

ただ、SRIとESGは、ほぼ同義として使われているようなシーンも見られます。

ESG経営に取り組む4つのメリット

ESG経営に取り組むメリットはさまざまありますが、その1つとして、さまざまなステークホルダーからの信頼性向上につながることが挙げられます。以下では、ESG経営に取り組むメリットを具体的に4つ紹介します。

投資家からの評価が上がる

近年、投資家は単に財務的なパフォーマンスだけでなく、企業の社会的責任や環境への影響、良好なガバナンスを重視するようになっています

ESG基準を取り入れることで、企業は自社が持続可能で社会的に責任を持った経営を行っていることを示せます。

リスク管理がしっかりしていること、長期的な視点での安定した成長が期待できることを投資家に伝え、信頼と評価を高めることにつながるでしょう。その結果、資金調達もしやすくなります。

企業のイメージアップにつながる

環境保護、社会貢献、透明性の高い経営への取り組みは、企業の信頼性と評判を高めます。

特に環境への配慮や社会的責任を重視する現代の消費者・ビジネスパートナーにとって、ESGへの積極的な取り組みは企業選びの重要な要素となっています。企業がESG基準に沿った活動を行うことは、ブランド価値を高め、より広い顧客層にアピールすることにつながるでしょう。

また、企業のイメージ向上は、優秀な人材の獲得やエンゲージメントの向上、さらには投資家やステークホルダーからの支持獲得を実現する上でも重要です。

経営リスクを軽減できる

環境、社会、ガバナンスの各側面を重視することにより、企業は社会的な情勢や、トラブル・不祥事といった多様なリスクに対応できます。

特に、強固なガバナンスは法的遵守、透明性の向上、企業不祥事の予防につながります。
ESGの原則を経営に取り入れることで、将来の不確実性に対処し、持続可能な成長を促進するとともに、長期的なリスクの軽減ができるでしょう。

労働環境の改善につながる

ESGの「Social」には、従業員の福祉と働く環境も含まれます。具体的には、適切な報酬、労働条件の改善、多様性・公平性・包括性の促進、安全な職場環境の提供などが挙げられるでしょう。

企業がこれらの側面に注力することで、従業員の満足度とモチベーションが高まり、生産性の向上につながります。

また、優秀な人材の採用や離職率の低下にも貢献します。結果的に企業の全体的なパフォーマンスと競争力を高めることが可能です。

ESG経営に取り組む3つのデメリット

ESG経営は、やろうと思ってすぐできるものではなく、長期的な方針として据えて、会社全体が一丸となって取り組む必要があります。以下では、ESG経営に取り組む上でのデメリット・注意点などを紹介します。

明確な基準・指標が存在しない

ESGには、企業の環境への配慮、社会的責任、良好なガバナンスを評価するための統一された基準や指標がまだ確立されていません。そのため、

企業が自らのESG活動をどのように測定し、報告するかについては、一定の解釈の幅が存在します

企業が自らのビジネスモデルや業界に合わせた、適切なESG戦略を策定できる面ではメリットですが、基準・指標が存在しないからこそ、設定が難しく感じる場合もあるでしょう。また、投資家にとっては、企業間のESGパフォーマンスを比較・評価する際にも、一定の難しさがあります。

長期的な取り組みが必要になる

ESGの要素は、短期的な成果よりも長期的な経営戦略と密接に関連しているのが特徴です。

環境保護の取り組み、社会的責任の実現、効果的なガバナンス構築などは、一朝一夕に成果が現れるものではなく、持続的な努力と時間を要します。

企業が短期的な利益の追求に重点を置くのではなく、長期的な視点でリスク管理やブランド価値の向上、社会貢献に取り組むことが求められます。そのため、ESG経営は戦略的計画と組織全体のコミットメントを必要とし、継続的な取り組みと評価が不可欠です。

コストが増加する可能性がある

ESG経営に取り組む際には、追加の投資やコストを要することがあります。

たとえば、環境面では、持続可能な資源の使用、エネルギー効率の高い技術への移行、排出削減技術の導入などが該当するでしょう。社会的側面では、従業員の福祉向上や公正な労働慣行の確立に関連するコストが生じることがあります。また、ガバナンス体制の構築には、監査やコンプライアンスの強化に関連する費用がかかる場合があります。

したがって、ESG経営への移行は、初期コストと長期的な利益のバランスを考慮する必要があります。

ESG経営に取り組む企業の具体例

最後に、ESG経営に取り組む企業の具体例として、花王株式会社・キヤノン株式会社の例を紹介します。実際の例を参考にし、自社のESG経営にぜひ生かしてみてください。

花王株式会社

花王株式会社は、ESG経営において、生活者中心のアプローチを核としています。

花王株式会社は、化粧品、スキンケア、ヘアケア製品、衛生用品、洗剤などの日用品を中心に事業を展開する、日本の大手企業です。同社は、事業活動を通じて社会の繁栄に貢献するという使命を持ち、1990年代から環境に配慮した製品開発やユニバーサルデザインの採用を進めてきました。2009年には「環境宣言」を発表し、製品ライフサイクル全体を通じて環境保護に注力しています。

2019年に発表された「Kirei Lifestyle Plan」は、生活者を中心に据えたESG戦略で、サステナブルなライフスタイルの実現を目指しています。生活者一人ひとりの価値観を尊重し、多様な選択肢を提供することで、それぞれに合ったサステナブルな暮らしをサポートしている企業です。

出典:花王「ESG経営」

キヤノン株式会社

キヤノン株式会社のESG経営は、「豊かな生活と地球環境が両立する社会」の実現に向けて、資源生産性の最大化を追求することに焦点を当てているのが特徴です。

キヤノン株式会社は、デジタルカメラ、プリンター、スキャナー、半導体製造装置などのイメージング製品を中心に事業を展開する、日本の大手企業です。

1988年に掲げた「共生」の企業理念に基づき、ESG経営に積極的に取り組んでいます。この理念は、持続可能な開発目標(SDGs)の考え方とも一致し、キヤノン株式会社は技術力を生かした新たな価値創造と社会課題の解決、環境保護活動を通じて社会に貢献しています。

環境の側面で言えば、キヤノン株式会社は気候変動、資源枯渇、有害物質による汚染、生物多様性の保全といった地球規模の課題に取り組んでいます。具体的には、製品から製品への資源循環の推進、化学物質の徹底管理、生物多様性の保全など、多岐にわたる環境活動を展開している企業です。

出典:キヤノングローバル「ESGの取り組み」

出典:キヤノングローバル「環境」

まとめ

ESG経営は、環境、社会、ガバナンスを重視する経営手法で、多くのメリットがあります。リスクの管理、イノベーションの促進、長期的な競争力の向上などに寄与し、企業の持続可能な成長を支える鍵となるでしょう。

ESG経営を導入する上でのポイントは、長期的な目線で行うことや、組織全体でコミットメントすることなどが挙げられます。企業理念やビジネス戦略にESGを組み込み、従業員にも方針や文化を浸透させていく必要があるでしょう。

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