VPPとは「仮想発電所」の意味!仕組みや必要性・メリットをわかりやすく解説
エネルギー効率向上と環境負荷軽減への迅速な対応が求められる中、VPP(バーチャルパワープラント)が企業の注目を浴びています。
本コラムでは、VPPの基本概念から仕組みやメリットまでをわかりやすく解説。
電力システムの効率化や再生可能エネルギーの最大限の活用、災害時のリスク軽減に焦点を当て、企業がVPP・DRに協力するメリットも具体的に紹介します。
カーボンニュートラルへ向けた、
企業が取るべき具体的アクションとは?
VPP(バーチャルパワープラント)とは
VPP(バーチャルパワープラント/仮想発電所)とは、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー、蓄電池、電気自動車(EV)といった日本中に点在する小規模エネルギー源を、IT技術で制御し、一つの発電所のように機能させることです。
再生可能エネルギーの発電施設は、火力発電所に比べ小規模で全国各地に点在しているため、まとまった電力供給が難しい場合が多いです。また、発電量が天候に左右されるためエネルギー供給が不安定です。この2つの課題を解決する手段として期待されているのがVPPです。
VPPはアメリカやイギリス、ドイツ、フランスなどで設立されており、日本でも実用化に向けた実証実験が進められています。
VPPが注目されている理由
VPPが注目されている理由は以下の3つです。
大規模発電への依存が問題になるため |
これまでの電力システムは、大規模発電所のみが供給側として電気を作り送電していました。電気はためておくことが出来ないため、需要と供給のバランスが崩れると、大規模停電になるリスクがあります。2011年の東日本大震災では、発電施設が被災し広域で停電・または計画停電する事態に陥りました。この反省を踏まえ、大規模発電に依存しない新しいエネルギー管理システムが求められるようになりました。 |
再エネや燃料電池など発電設備の普及 |
クリーンで半永久的に電気を生み出せる再生可能エネルギーは、次世代電力として世界中で利用が拡大しています。太陽光発電や燃料電池、電気自動車などの小さな発電設備は企業や一般家庭にも普及が進んでおり、これまで電力を使うだけだった立場の人が、電力を生み出すことができるようになりました。 |
IoT技術の発達 |
身の回りの物がインターネットにつながるIoT技術の発達により、情報の行き来や相互制御が可能になりました。外出先から自宅エアコンのスイッチを操作するように、分散する機器を遠隔で制御できるIoT技術を活用することで、 電力の需給バランスを調整できます。この仕組みがあれば、発電設備が分散していても、ひとつの発電施設のように機能させることができるのです。 |
VPPの仕組み
VPPは、全国各地にある以下3つの設備をIoT技術でつなぎ、エネルギー需給量を集約・遠隔操作します。この3つの設備は、電力を使う側でもあるため「需要家」と呼ばれます。
①一般家庭や企業(ビル・工場)の太陽光発電などの小規模発電設備
②蓄電池や電気自動車などの蓄電設備
③空調・給湯設備などの需要設備
大規模発電所から供給される電力に不足があった場合、VPPを通じて全国から電力を集めて需給バランスを保つことができます。電力が足りない場所に余剰電力を分配し、使われなかった電力は蓄電設備に回します。VPPは仮想発電所と表現されますが、「発電」だけでなく電気を効率よく分配し「需給バランスをとる役割」も可能な仕組みなのです。
VPPをコントロールするアグリゲーター
全国のエネルギー需給量を集約・遠隔操作する「司令塔」としての役割を担う仲介事業者を、アグリゲーター(アグリゲートは日本語で集める・束ねるという意味)と呼びます。アグリゲーターには2種類あり、それぞれに違う役割があります。
- ・リソースアグリゲーター
前述した3つの設備(小規模発電設備、蓄電設備、需要設備)との間でエネルギー統合・制御する契約を結び、リソース(=資源)を管理する役割を担います。需要家に近い立場のアグリゲーターです。
- アグリゲーションコーディネーター
リソースアグリゲーターが統合・制御した電力量を束ねて、一般送配電事業者(送配電ネットワークを管理し電気を送る事業者)や小売電気事業者(電力会社など消費者へ電気を売る事業者)と取引を行う役割を担います。電力会社に近い立場のアグリゲーターです。
なお、2種類のアグリゲーターを兼務する仲介事業者や、電力会社がアグリゲーターを兼務する場合もあります。
VPPに不可欠なDR(デマンドレスポンス)
電気を安定供給させるためには、供給と需要が同じ時に同じ量になる必要があります。
この量が常に一致することで、電気の周波数が整い高品質の電気が供給できます。電力会社は刻々と変わる需要に合わせて発電量を変え、電力の需給バランスを保つ努力をしています。
VPPでも電力の需給バランスを保つために、電気を使う側(需要家)が使用量を制御するDR(デマンドレスポンス=電気の需要の最適化)の存在が不可欠です。DRは電気の需要を増やす「上げDR」と、電気の需要を減らす「下げDR」の2通りの手法を使います。
分かりやすい例を使うと、「上げDR」が発動する時は電気の需要を増やすため、余剰電力を使って需要設備を稼働させたり、蓄電池や電気自動車を充電したりして電力を余らせないようにします。反対に「下げDR」が発動する時は電気の需要を減らすため、需要設備の稼働を止めたり、蓄電池から放電した電気を使ったりして電力不足を解消します。
DRは、電気料金設定により電力需要を制限する「電気料金型DR」と、電力会社からの要求に応え節電することで需要家が報酬を得る「インセンティブ型DR」という仕組みを使って需要抑制を行います。
VPPの意義・メリット
VPPは、大規模発電所に依存する現在の電力システムが抱えていた課題を解決できる手段として、強く期待されています。VPP導入の意義やメリットを見ていきましょう。
電力システムを効率化できる
電力の使用量は季節や時間帯により変動します。
経済産業省によると、1年の中で電力需要のピークは88時間ですが、これは年間発電時間の約1%でしかありません。このピーク需要をまかなうために、原子力発電所4基分に相当する発電所が維持・管理されています。また、ピーク需要をまかなう時は燃料費が高い電源の焚き増しが行われることも多く、経済的な方法とは言えません。
VPPでは、ピーク時間帯の需要量を下げたり、別の時間帯に移したりすることで電力需要の負荷を平準化できます。
ピーク時間帯の需要量を抑えることで、維持・管理されている発電所の稼働を止めることができ、燃料費や維持管理費などの発電コストが削減できます。
結果として、効率的で経済的な電力システムの構築が可能となります。
再生可能エネルギーを無駄なく活用できる
太陽光や風力など自然の力を使って発電する再生可能エネルギーは、発電量が天候に左右されます。
そのため、需要よりも発電量が少ない時は、他の電源を出力し需給のバランスを取っています。しかし、再生可能エネルギーを作り過ぎてしまった場合は、送電網に流さず捨ててしまう出力制御をしています。現状では供給過多に対応するシステムがないためです。
VPPでは、発電量が多過ぎた場合に需要家側のエネルギーリソースを抑制し需要を創出できるので、再生可能エネルギーを無駄なく活用することができます。
上げDR、下げDRを発動することで余剰電力を捨てずに活用できることは、VPP最大の強みであり、再生可能エレルギーの拡大と安定供給のため必要不可欠な仕組みです。
災害時の停電リスクを小さくできる
自然災害の多い日本では、大規模発電所が被災し、電力供給できなくなるリスクを抱えています。
大規模発電所の復旧には時間がかかる場合もあり、広範囲の企業や一般家庭が影響を受けます。さらに高齢者施設や医療機関など、電力供給の有無が生命に直結する施設への影響は深刻です。
VPPでは、全国各地にある小規模発電所から電力を集められるので、被災地以外から電力を融通することができます。また、発電所や発電設備が被災しても、小規模であれば被害も少なく、復旧が早い可能性があります。災害時に停電リスクを小さくできる点もVPPのメリットです。
企業がVPP・DRに協力するメリット
需要家が電気使用量を制御するDR(デマンドレスポンス)に企業が協力すること、アグリゲーターと契約して節電を行うことには、さまざまなメリットがあります。
節電によって報酬を得られる
DRには、電気料金型とインセンティブ型があるとご説明しましたが、メリットが大きいのは、節電することで報酬を得られる「インセンティブ型の下げDR(=ネガワット取引)」です。
インセンティブ型の下げDRは、電力事業者から要請される節電日時に、標準的な電力使用を下回ることで節電に協力したとみなされ、節電量に応じてポイントを付与される仕組みです。
現在の相場は1kWhあたり5ポイント前後なので、節電要請時間に4kWh削減した場合は20ポイント獲得できる計算です。
貯まったポイントは電気料金から差し引くことができ、コスト削減に直結する大きなインパクトがあります。
社会的価値を創出できる
DRに協力することは、電力の需給バランスを保つ役割を担うという社会的価値のあることです。
災害による発電所の停止、異常気象による電力使用量の増加、天候不順による再生可能エネルギーの供給不足など、電力の需給ひっ迫はいつ起こるか分かりません。
DRに協力する企業が増えれば、強い電力基盤を構築することができます。
近年の経済界では、社会問題に向き合うESG(環境・社会・ガバナンス)経営が一般化しており、投資家や消費者も環境に配慮した活動を行う企業を支持する傾向にあります。
ESGやSDGsの観点からも、DRに協力することは企業価値の向上につながります。
自社の節電意識を高められる
DRに協力することで、自社が使う電力を可視化し節電意識を高めることもできます。
毎月の電力使用量や使う時間帯を把握することで、電気使用の見直しや省エネの検討が可能となります。電気料金は変動費なので、実態を把握することで対策案を考えコストカットできる分野です。
インセンティブ型の下げDRの場合は、ポイント付与という形で節電量が可視化されるため、社員への意識づけにも有効です。特に若い世代はESGやSDGsに関心の高い層が多いため、帰属意識の向上にも役立つでしょう。
自社のリソースを活用できる
DRに協力することで、企業が所有するリソースを有効活用することもできます。
例えば、経済活動に必要不可欠な空調や照明や生産設備、非常時用の自家発電設備や蓄電池、CO2の排出が少ない電気自動車や水素と酸素でエネルギーを作る燃料電池などが挙げられます。
このようなリソースを分散型エネルギー源としてアグリゲーターに遠隔操作してもらうことにより、VPPに参加することができます。
非常時用の設備を平時も稼働させることで、報酬を得ることができます。またVPPに協力することを前提とした蓄電池購入には、補助金がつく場合もあります。
VPPを活用したビジネス「ネガワット取引」
ネガワットは、ネガティブワット(マイナスの電力)という造語を省略した言葉です。
インセンティブ型の下げDRとして2017年から始まったネガワット取引は、VPPを活用したビジネスとして将来性が期待されています。
そんなネガワット取引について分かりやすく解説します。
ネガワット取引の基本的な流れ
〜準備編〜
① アグリゲーターへアプローチ |
ネガワット取引についてアグリゲーターに問い合わせを行います。 |
② 状況把握を行いアグリゲーターと協議する |
ネガワット取引の仕組みやメリット、具体的な対応方法をアグリゲーターから聞き、参加を希望する場合は、企業の電力使用状況や所有設備、抑制可能なkWなどをアグリゲーターと協議し、抑制可能なkWを試算します。 |
③ ネガワット取引の契約をする |
接続時間、容量、報酬、ペナルティ等を取り決め、下げDR(ネガワット取引)契約をアグリゲーターと締結します。必要に応じてネガワット取引のための装置や設備を導入し、発動を待ちます。 |
〜実施編〜
① 電力会社がアグリゲーターへ節電要請(下げDRの指令)を出す |
電力の需給ひっ迫が起こると、電力会社から下げDRの指令がアグリゲーターに出されます。現在は電話やオフラインメールでの指令ですが、将来的にはインターネットや専用回線になると想定されています。 |
② アグリゲーターが需要家へ下げDRの指令を出す |
対応時間と節電kWの指示が入ります。指令の受け取り方は電話やメール、FAX、遠隔制御など複数ありますので、事前に取り決めておきます。 |
③ 下げDRの実施 |
指令に従い節電を行います。空調や照明を消す、生産設備を停止させる、発電機や蓄電器を稼働させるなど、需要抑制の方法は事前に取り決めておきます。 |
④ 報酬の支払い |
実施後は契約に基づいた報酬がアグリゲーターから支払われます。 |
VPPを推進するための国の施策
日本を含む120の国と地域が目標に掲げている「2050年カーボンニュートラル」を実現させるため、我が国は再生可能エネルギーの導入拡大と電力の安定供給を両立させなければなりません。
その解決策として国はVPPを推進しており、さまざまな施策を打ち出しています。
改正省エネ法
省エネ法は1979年のオイルショックを機に制定された法律です。一定規模以上の事業者にエネルギーの使用状況を報告させ、省エネやクリーンエネルギーへの転換を促しています。
2023年4月の改正では、以下3つの点が新たに盛り込まれました。
- エネルギー使用の合理化
これまでの省エネ法では、エネルギーの定義が化石エネルギー(石油・石炭など)のみでしたが、今回の改正により非化石エネルギー(太陽光発電、水素、アンモニアなど)も含まれるようになりました。これにより、化石・非化石エネルギー双方の使用を合理化することが求められます。
- 非化石エネルギーへの転換
省エネに関する中長期計画書やエネルギー使用状況の定期報告に加え、非化石エネルギーへの転換に関する中長期計画の作成や非化石エネルギーの利用状況の報告が必要となりました。
- 電気の需要の最適化
再生可能エネルギーを有効活用するため、DRの実績報告が義務化されました。これは、DRを実施している事業者数を国が把握するためです。
DRの実施回数やDR実施量(kWh)の報告に基づき、優良事業者は公表や補助金での優遇が受けられます。
DR補助金
正式名称は「電力需給ひっ迫等に活用可能な家庭・業務産業用蓄電システム導入支援事業」で、簡単に言うと蓄電池の購入に使える補助金です。
補助金の上限は1台あたり60万円、遠隔制御に対応した機器に限られます。
申請期限は2023年12月22日です。
まとめ
再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、VPPに協力する企業や家庭は今後増えるでしょう。
中でもネガワット取引は、電気代削減に加え報酬が得られるビジネスモデルであるため、コスト削減に直結します。
ホールエナジーは、電力コスト削減に特化したコンサルティング会社として、企業の電力コスト最適化と再エネ導入のサポートを得意としています。
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参考資料
資源エネルギー庁 VPP・DRとは
資源エネルギー庁 ディマンド・リスポンスってなに?
資源エネルギー庁 エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスハンドブック