CDPとは?対応するメリットと回答内容・スコアアップ方法を解説

2023.09.07
ESGカーボンニュートラル脱炭素

CDPとは、気候変動問題に取り組む国際NGOです。企業や自治体の温室効果ガス排出削減に向けた取り組みを評価し公表しています。日本でも年々評価に協力する企業が増えており、CDPに対応することで企業ブランディングにつながるケースもあります。

当記事では、環境系の国際NGOとして有名なCDPとはなにか、対象となる企業、企業が対応するメリット、3つの質問書などを解説します。企業のSDGs施策を担当されている方はぜひ参考にしてください。

  カーボンニュートラルへ向けた、

企業が取るべき具体的アクションとは?

1. CDPとは

CDPとは「Carbon Disclosure Project(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)」の略で、2000年にイギリスで発足した国際NGO(非政府組織)です。元々は気候変動問題に対して、企業や自治体に排出炭素量(CO2)を開示させるプロジェクトとして発足しました。

現在は水や森林資源も回答対象とし、世界90カ国以上の事業者が参加しています。

1‐1. CDPと気候変動

地球温暖化にともなう気候変動は、地球で生活する動植物において重大な事象です。猛暑や豪雨が増える地域もあれば、干ばつが続く地域もあり、「異常気象」と感じる変化が世界中で起こることで、農作物や生態系、海洋資源への影響が懸念されています。

CDPは気候変動に関連するデータを企業や自治体から収集し、情報開示しています。

1‐2. CDPの活動目的

CDPの活動目的は「人々と地球にとって、長期的に機能する経済の繁栄」です。

気候変動問題は倫理的に向き合うだけでなく、持続可能な経済活動のために必要な手段だと位置付けています。情報開示を通じて、自身の環境への影響を認識することを促しています。近年は投資家や経営者にも大きな影響を与えるようになりました。

1‐3. CDPの主な活動内容

CDPは企業や自治体などの事業者に対し、環境情報を得るための「質問書」を送付します。その回答を元に独自の評価基準でスコアをつけ情報を開示します。

現在はCDPのホームページから質問書にアクセスし回答することもできますので、事業者側から行動を起こすことも可能です。

2. CDPの回答対象となる企業

CDPが質問書を送付するのは時価総額が高い大手企業です。

2023年は約2,000社の日本企業が気候変動、フォレスト、水セキュリティについての情報を開示しています。なお全世界では約23,000の組織がCDP質問書を通じた情報開示を行い、2022年より約24%増加しました。

回答対象企業は年々拡大しており、企業からの回答率も増えています。

(出典:CDP「CDP 2023 企業の情報開示」/https://japan.cdp.net/scores

2‐1. 中小企業も対象となる可能性がある

CDPは、回答対象である大手企業と取引のあるサプライヤーにも情報開示を求める「CDPサプライチェーンプログラム」を進めています。原料の調達や開発・製造・出荷などのサプライチェーン上における環境負荷を可視化するため、中小企業であっても取引先からCDPの回答を求められる場合があります。

日本の環境省は2019年にCDPサプライチェーンプログラムへの参加を表明しています。

3. CDPで回答する内容は?

CDP質問書は、もともとは3つに分かれていたものが2024年からは1つの質問書に統合されました。ただし、1つの質問書の中で、環境に関する3つのトピックスについて回答する必要があります。

CDP質問書の中で回答を求められるトピックスは、次の通りです。

3-1. 気候変動

気候変動のトピックスにおける質問は、質問書内の「モジュール7」で扱われています。気候変動については主に、次のような内容を回答します。

・温室効果ガス(GHG)の排出量と内訳
・温室効果ガス排出量の目標設定
・温室効果ガス排出削減への取り組み
・エネルギー関連活動の割合

気候変動のトピックスは、温室効果ガス排出対策や気候変動リスクに対する管理、社内のガバナンスなどを問われます。温室効果ガス排出量の算定方法や子会社の排出量データなど、詳細にわたる回答が必要です。

気候変動のトピックスは、日本国内でも採用されているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とも重なる内容です。

2022年度からは、生物多様性に関する質問も気候変動のトピックスに盛り込まれていましたが、2024年度は生物多様性は独立したトピックスとして扱われています。

3‐2. 水セキュリティ

水セキュリティに関する質問は、質問書内の「モジュール9」の「環境パフォーマンス-ウォーター」にて展開されています。水セキュリティの主なテーマは次の通りです。

・企業活動における水の取水量
・排水量・消費量・水資源の不足
・需要増加に関する影響
・水質汚染に関するデータ

水セキュリティのモジュールでは、気候変動と同様、水セキュリティに対する意識や取り組みについて回答します。水量のモニタリングや今後予想される水リスクなどについて、多角的な質問への回答が求められます。

水セキュリティについての回答を求められる組織は、食品メーカー・電力会社・化学産業・アパレルメーカーなどです。いずれも、企業活動において水を多用する企業もしくは事業内容が水資源に影響を与える企業としてピックアップされています。

3‐3. フォレスト

フォレストのトピックスは、質問書内の「モジュール8」で取り扱われています。フォレストに関する主な質問テーマは次の通りです。

・コモディティ量に関するデータ
・製品(コモディティ)が森林減少と転換に与える影響
・認証コモディティの販売量

ほかには、森林規制などの法令順守やバイオ燃料、コモディティの原産地や調達量に対するトレーサビリティについての質問もあります。

また、一部GHGの排出量についての質問も盛り込まれており、多様な質問にも答える必要があります。

フォレストについての回答を求められる組織は、木材製品・パーム油・畜牛品・大豆や大豆製品の調達先企業です。いずれも、動植物に由来するコモディティと大きくかかわっています。

4. CDPスコアとは

CDPは独自のスコアリング基準を設けており、これに則り企業からの回答を採点します。CDPスコアがつくことで、企業は自社がもたらす環境への影響や将来のリスクを数値化でき、管理しやすくなります。3つの質問書それぞれにスコアリング基準が設けられおり、企業はランク付けされます。

CDPは毎年4月頃に対象企業に質問書を送付し、同年の7月後半までの回答を求めます。そして同年の12月にCDPのホームページで各企業のスコアを公表します。この結果はCDPに加盟する機関投資家や企業に広く開示されるため、ESG投資や企業間取引にも影響があると言われています。

4‐1. CDPのランクは5段階

質問書に対する企業の回答は、CDPのスコアリンク基準に則り点数が付けられます。合計点により企業は5段階のランクに分類されます。

・リーダーシップレベル(A,A-)
 環境問題が起こることで自社が被るリスクとビジネスチャンスを理解しており、環境保全活動や事業の成長戦略に主導的に取り組んでいる企業です。
・マネジメントレベル(B,B-)
 自社の事業が環境に与える影響を評価し、環境問題を事業戦略に統合するための努力を行なっている企業です。
・認識レベル(C,C-)
 自社の事業と環境問題がどのように関連するかを考え、初歩的なスクリーニングや評価を行なっている企業です。
・情報開示レベル(D,D-)
 環境問題と事業の成長戦略についての管理責任が不十分な企業です。
・無回答企業(F)
 質問書の回答をしなかった企業です。

5. 企業がCDPに対応する4つのメリット

CDPの質問書に対応することは企業にとってメリットがあります。代表的な4つのメリットを見ていきましょう。

5‐1. ESG投資の獲得が有利になる

近年、日本でも運用資産額が増加しているESG投資は、財務的な要素に加えて非財務的要素である、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス/企業統治(Governance)を考慮する投資のことです。

CDPスコアは、株価情報にも掲載される国際的に信用度の高い情報です。そのため、ESG投資を希望する投資家にとってCDPスコアは企業選びの重要な判断材料となっています。

5‐2. 自社の取り組みレベルを把握できる

CDPの質問書に回答するためには、自社の事業が環境に与える影響や解決すべき課題について、深く理解する必要があります。CDPに対応することで、おのずと自社の進捗状況を把握できます。

また、CDPスコアリング前後でフィードバッグを受けることができるので、自社の対策を改善する機会にもなります。

5‐3.  TCFDの準備も兼ねる

TCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosures)とは、金融システムの安定化を目指す国際組織・FSB(金融安定理事会)によって2015年に設立された組織で、日本では気候関連財務情報開示タスクフォースと呼ばれています。世界中の企業に対して、気候変動への取り組み策を開示するよう推奨しています。

CDPの気候変動質問書には、TCFDの質問も含まれているため、CDPの質問書に回答することはTCFDの準備にもなります

5‐4. 企業ブランディングにつながる

CDPスコアで高得点が取れれば、環境意識が高い企業として箔(はく)がつき、投資家だけではなく消費者に対してもアピールすることができます。

環境に配慮した企業経営は世界的な流れであり、商品やサービスの選定基準として年々重要度が増しています。

6. CDPに対するデメリットもある

CDPの質問書に回答するには、回答事務費用を支払う必要があります。

2023年5月時点での標準価格は295,000円ですが、企業規模を考慮し106,000円・702,000円という3つのプランがあります。

(出典:CDP「回答事務費用に関してよくある質問 」/https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/007/965/original/CDP_fee_FAQ2023_JP.pdf

また、質問書に回答するために正確な自社状況を把握し、英語での文章化をする必要があるため、多くの手間と時間を要します。

7. 日本でのCDPの取り組み

日本では、CDPの調査は2006年から導入されていました。CDPの取り組みが本格的に加速したのは、2020年以降です。

2020年10月、当時の菅総理大臣が国会で打ち出したカーボンニュートラル宣言を皮切りに、各省庁が二酸化炭素排出削減に積極的に乗り出しはじめました。カーボンニュートラル促進の流れの中で、環境庁が「サプライチェーン・アジア・サミット2021」をCDPと共催し、CDPに注目が集まりました。

また、2022年からは、プライム市場上場企業の全社を対象に情報開示の要請を行い、CDPをより浸透させる取り組みが進みました。

直近のCDP回答率は、プライム市場上場企業全社への要請に対し、2022年の調査では57%、2023年では64%です。1年間に回答率向上の傾向が見られ、日本国内での動向としては、CDPがさらに浸透していることがうかがえます。

2023年の調査では、日本企業は102社が最高位のAランクを獲得しました。日本企業のAランク取得数は世界最多クラスで、世界的に見ても日本企業のCDPの取り組みは質が高いと言えるでしょう。

7‐1. 日本での2022年度「Aリスト」企業

日本企業のAリストの数は世界的に見てもトップレベルです。

特に消費財メーカーである花王株式会社は、3年連続で3分野すべてAリスト評価を獲得するトリプルA企業となり、環境に配慮した事業戦略の本気度を国内外に示しました。

(参考:花王「花王、3年連続でCDPから「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」の分野で最高評価を獲得」/https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2022/20221213-001/

8. CDPに回答に必要な流れは?

CDPの回答が必要な企業には、団体から回答の要請が届きます。回答企業は要請を受け、Web上での回答が必要です。ここでは、CDPの回答に必要な準備を解説します。

1.求められる取り組みを確認する
CDPの回答項目は、組織や企業が社会から求められる取り組みによって異なります。まず、組織・企業が求められている取り組みを確認し、どのトピックスに回答する必要があるかを確認しましょう。求められる取り組みを確認するには、CDPに関する公開資料を参照してください。
2.自社の現状を把握する
回答にあたっては、自社の取り組み内容や取り組みのレベルを把握しておく必要があります。回答すべきトピックスに基づき、関連部署と協力してデータ収集などを行い、事前に自社の取り組みの現状を把握しましょう。
前年度の質問内容から、回答の必要があると予測される項目を洗い出し、チェックリストなどを作成しておくと、スムーズに現状を把握できるでしょう。
3.実際に取り組みを行う
自社が求められているトピックスについて、実際に取り組みを行います。取り組みを行う際は、自社の現状を踏まえ、不足している取り組みを押さえた上で、不足を補うシステムやマネジメント体制の構築を進めましょう。

CDPは回答すれば完了するわけではありません。CDPの回答を実際の施策に結びつけることが大切です。

9. CDPのスコアアップを目指すには?

CDPのスコアが高い企業は、社会からの評価や信頼性が高まる傾向があります。できるだけCDPのスコアをアップさせるためには、下記の点に注意して回答するとよいでしょう。

9-1. 未実施の項目もきちんと記入する

CDPの質問項目の中には、自社では実施していない項目が出てくる場合があります。未実施の項目は、実施していない旨をきちんと記入しましょう。CDPでは具体性が重視されるため、未実施の項目をあたかも実施したかのように記入しても、高得点にはつながりません。

また、未実施の項目であっても、空欄で提出すると無回答として扱われます。未実施であることを記入すると最低限のスコアがつき、無回答よりスコアをアップさせられます。

9‐2. 自由記述欄はSTAR法を活用する

CDPの回答方法は、選択式と自由記述です。自由記述欄への回答は、STAR法を活用すると具体性が高まり、スコアアップにつなげられるでしょう。

STAR法の「STAR」は、状況(Situation)・課題(Task)・行動(Action)・結果(Result)の頭文字を取った名前です。自由記述欄の回答には、具体性が求められます。STAR法を活用し、4つの項目を盛り込むことで、記述内容の具体性を高められます。

ただし、自由記述欄の回答は具体性だけでなく、表記やデータの正確性も必要です。STAR法だけに気を取られず、正確な記述を心がけましょう。

9‐3. 明確な根拠を用いて説明する

CDPで高いスコアを獲得するには、実施した内容やデータだけではなく、明確な根拠を用いた説明が必要です。CDPでは、意思決定や実施に至った理由や考え方を具体的に書くことを意識しましょう。

たとえば、二酸化炭素の排出量削減の取り組みについて記入する場合、取り組みが必要と判断するに至った数値などを記入すると明確な根拠を示せます。数値などのデータも具体的であるほどよいため、内訳など詳細なデータを記入しましょう。

まとめ

温室効果ガス排出削減や製品ライフサイクルの環境負荷低減などを可視化して評価するCDPの取り組みは世界中で広がっています。経済のグローバル化が進む中で、今後ますます重要度が高まるでしょう。

自社で再エネ導入までの対応を行うことに不安がある場合は、専門家のコンサルティングへの相談を検討してみることをおすすめします。

株式会社ホールエナジーは、企業のためのカーボンニュートラル実現へ向けたコンサルティング会社として、非化石証書購入代行サービスコーポレートPPAマッチングサービスなどを通して、企業の脱炭素化をご支援させていただいております。

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