SBT認定企業とは?認定される3つのメリットや認定基準・事例を解説

2023.11.22
ESGSDGsカーボンニュートラル

地球温暖化の原因と考えられている温室効果ガスを出さない「脱炭素社会の実現」に向け、世界中で様々な取り組みが行われています。その中で近年、注目が高まっている「SBT」とは、パリ協定を背景に作られた温室効果ガス排出量の削減目標です。

本記事では、企業でコスト・CO2削減に取り組む方やSDGs担当者様に向けて、SBT認定の概要から認定基準や手順、取得するメリットや国内の事例を解説します。ぜひお役立てください。

  カーボンニュートラルへ向けた、

企業が取るべき具体的アクションとは?

 SBT認定の概要

SBT(Science Based Targets)は、企業の環境への取り組みを示す目標設定の一環で、2015年のパリ協定に端を発します。
Science Based Targetsの略で、「科学的根拠に基づいた目標設定」を指し、各企業はパリ協定の「2℃目標」に基づき、気温上昇を2℃未満(または1.5℃未満)に抑えるための温室効果ガスの排出削減目標を策定します。
この目標は、5〜15年の中長期的な視野を持つことが求められています。

2023年3月時点で、日本のSBT認定企業は369社であり、世界的にもイギリスに次ぐ2位の規模を誇っています。
これは企業が環境問題に対して高い関心を抱き、積極的な取り組みを行っていることを示しています。
SBTはCDP、国連グローバルコンパクト、世界資源研究所、世界自然保護基金によって推進され、科学的根拠に基づいた温室効果ガスの削減目標を持つ企業をサポートしています。

出典:環境省 中長期排出削減目標等設定マニュアル

パリ協定とは

SBTが創設された背景にある「パリ協定」とは、2020年以降の気候変動に関する国際的な枠組みで、2015年の「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」で合意されました。

パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトさせることを長期目標としました。
パリ協定は、途上国を含む主要排出国に対して排出削減の努力を課した点が、画期的であると評価されています。

SBT認定とRE100の違い

SBTとRE100の主な違いは、目標の焦点と範囲にあります。
SBT(Science Based Targets)は、企業が温室効果ガスの排出を科学的な根拠に基づいて削減することを目指すもので、Scope1、Scope2、およびScope3までを対象としています。

一方で、RE100は、企業が使用する電力を100%再生可能エネルギーに転換することを目指しています。

具体的には、SBTは温室効果ガスの排出全体にわたる削減目標を設定するのに対し、RE100は再生可能エネルギーの導入に焦点を当て、年間消費電力量が一定以上の大規模企業を対象としています。
RE100の参加企業は、年間消費電力が100GWh以上(日本では50GWh以上)である必要があります。
また、RE100は温室効果ガス排出の範囲が限定的で、SBTに比べて大企業に焦点を当てています。

SBT認定は中小企業も可能

SBTは事業規模に関わらず全ての企業が参加可能です。
SBTが削減対象とする排出量は、事業者自らだけでなく、サプライチェーン排出量も含まれます。
サプライチェーン排出量とは、次の3つの温室効果ガスを合計したものです。

スコープ1(工業プロセスにより事業者が直接排出)+スコープ2(光熱費の使用に伴う間接排出)+スコープ3(原材料の調達や輸送、製品の使用や破棄に伴う間接排出)

ちなみに、中小企業向けのSBTではスコープ3は対象外とされています。

中小企業向けSBTの要件
出典:環境省 中長期排出削減目標等設定マニュアル

2023年のSBT認定企業

2023年3月時点のSBT認定企業は世界全体で2,310社。
国別認定企業数は1位のイギリスが387社、2位の⽇本が369社(内224社が中小企業)、3位のアメリカが300社となっています。

日本は2015年時点で認定企業は3社でしたが、2018年から増加傾向で2021年度は69社が認定を取得しました。
SBT認定を受けている企業の業種傾向を見ると、世界的には専門サービス業・⾷料品製造業・不動産業が多く、⽇本では電気機器、建設業が多くなっています。

SBT認定のための基準

SBT認定を受けるには、以下の基準を元に目標水準を設定し、具体的な削減経路を算出していきます。

  • 企業全体の温室効果ガスが対象(スコープ1,2や子会社含む)
  • 目標年は申請時から5〜10年以内
  • Scope1およびScope2では、産業革命前と比較して1.5℃以内に抑える削減目標を最低でも設定(毎年4.2%の削減)。
  • Scope3排出量がScope1およびScope2およびScope3排出量合計の40%以上の場合、Scope3の削減目標の設定が必須。
  • スコープ3では、世界の気温上昇を産業革命前と比べて2℃を下回るよう抑える水準(毎年2.5%の削減)を設定

 SBTに認定されるための手順

環境省が公開している、SBT認定を受けるための手順を見てきましょう。

Commitment LetterをSBT事務局に提出する

「2年以内にSBT認定を行う」と宣言する書類にサインして提出します。
このステップは任意ですが、Commitment Letterを提出するとコミット企業としてSBT事務局のWebサイトに公表されます。

申請書をSBT事務局に提出

12点の記載項目を埋めて、Target Submission Form(目標認定申請書)を提出します。
申請書はSBT事務局のWebサイトからダウンロード可能です。書類は全て英語表記となっています。

 SBT事務局による⽬標の妥当性確認・回答

目標の妥当性確認には9,500USドル(外税)の申請費用が必要で、最大2回の目標評価が受けられます。回答などのやり時は基本的にメールとなります。

Webサイトで公表

目標の妥当性が確認され審査を通過したら、晴れてSBT認定企業となります。SBT事務局のWebサイトに公表されます。

年1回報告

SBT認定企業となったら、排出量と対策の進捗状況を毎年報告し開示する義務があります。
進捗状況を公表し、透明性の高い運営をすることが求められます。

⽬標の妥当性の確認

最新の気象科学と目標の整合性を確実にするため、最低でも5年ごとに目標の見直しを行い、必要に応じて再計算・再検証を行う必要があります。

SBT認定を受ける3つのメリット

申請に手間と費用がかかるSBT認定ですが、取り組むことにより企業はどんなメリットを享受できるのでしょうか。

投資家から評価される

1つ目のメリットは資金調達が円滑になることです。近年、環境や社会・ガバナンス問題に取り組む企業へ資金が集まる「ESG投資」が拡大しています。
利益至上主義よりも、環境問題に目を向け取り組む企業の方が、投資家から評価される時代です。
環境省の公表データによると、2020年世界のESG投資額は35.3兆UDドルで2016年から1.5倍増えました。日本のESG投資額は2020年2.9兆UDドルで、2016年から5.8倍増えました。
日本のESG投資額は2020年に世界の約8%を占めるほど急拡大しています。

従業員のモチベーションが上がる

2つ目のメリットは社内が活性化することです。
SBTは長期的な削減目標を具体的に設定し、結果にコミットする制度です。
そのため、全従業員が共通認識を持ち取り組まなければ達成できません。目標達成のためのイノベーションや新しい発想が生まれやすい環境となり、従業員のモチベーションアップが期待できます。

消費者にアピールできる

3つ目のメリットは企業イメージが向上することです。
異常気象や脱炭素社会に向けた報道が日常化する中で、消費者の環境問題への関心が高まっています。商品やサービスの品質だけでなく、企業が環境問題をどう捉えているかも見られるようになりました。SBT認定を受けることで、環境問題に本気で取り組む姿勢を消費者にアピールできます。

SBT認定企業の取り組み事例を紹介

日本ではどのような企業がSBT認定を受けているのでしょうか。具体的な取り組み事例と共に解説します。

日清食品

即席麺業界で国内シェア1位を誇る日清食品は、2020年4月にSBT認定企業となりました。作物の収穫に大きく関与する気候変動問題に取り組むことは、食品メーカーの最重要課題と位置付けています。

省エネ化および再エネの使用比率を上げ、2030年までに(2018年比で)グループ全体の温室効果ガス排出量を30%削減することを目標に掲げています。

参考:日清食品グループの温室効果ガス排出削減目標が「Science Based Targets (SBT) イニシアチブ」の認定を取得しました | 日清食品グループ

ベネッセコーポレーション

教育業界の最大手ベネッセコーポレーションは、2021年4月にSBT認定企業となりました。教育事業では大量の紙を使用し、輸送にエネルギーを使います。教材のデジタル化を進めることで、環境負荷削減に取り組んでいます。

デジタル教材の導入や自然林破壊の疑いがある企業から紙を調達しない等のことで、2030年までに(2018年比で)温室効果ガス排出量を52.8%削減、2041年までに100%削減することを目標に掲げています。

参考:イニシアチブへの参加 | サステナビリティマネジメント | サステナビリティ | 株式会社ベネッセホールディングス

花王

創業130年を超える大手消費財化学メーカーの花王は、2019年7月にSBT認定企業となりました。花王の製品ライフサイクルで排出される温室効果ガスの77%は、原材料の調達と製品の使用時であり、サプライチェーン全体で取り組む必要がありました。

2019年4月に策定したESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」の中で2030年までに(2017年比で)温室効果ガス排出量を22%削減することを目標に掲げています。

参考:花王 | 花王の温室効果ガス削減目標がSBTイニシアチブの認定を取得

ファミリーマート

ファミリーマートは2020年3月にSBT認定企業となったことを発表しました。これはコンビニエンスストア業界で初めての認定です。

ファミマeco ビジョン2050を策定し、店舗運営に伴う温室効果ガス排出量を2030年までに(2013年比で)40%削減、2050年までに100%削減することを目標に掲げています。

参考:ファミリーマートの温室効果ガス削減目標が 「Science Based Targets(SBT)イニシアチブ」の認定を取得 |ニュースリリース|ファミリーマート

まとめ

SBTは、パリ協定に基づいて立ち上げられた国際的な取り組みで、科学的な根拠に基づいた目標を5〜10年の間に達成する必要があります。SBT認定を受けた企業は、温室効果ガスの排出削減に真剣に取り組んでいると評価されます。

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この記事は2023年8月14日に公開したものを11月22日にリライトしたものです。

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参考記事

環境省 排出削減目標設定 – グリーン・バリューチェーンプラットフォーム

環境省 SBT(Science Based Targets)について

環境省  環境省RE100の取組 | 地球環境・国際環境協力