バーチャルPPAとは?仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく解説

2023.09.13
コーポレートPPA再エネ調達再生可能エネルギー脱炭素
バーチャルPPA

再生可能エネルギー電力を調達する方法の1つである、「バーチャルPPA」が世界的に注目されています。
海外では主流になりつつある仕組みで、日本でも2022年から新しい電力形態として活用が始まっています。

本記事ではバーチャルPPAとは何か、特徴やメリット、フィジカルPPAとの違いなどについて解説していきます。

バーチャルPPAとは

バーチャルPPAとは、仮想電力購入契約(Virtual Power Purchase Agreement)のことです。

電気を使用したい企業が、直接発電事業者と長期で電力契約を結ぶ仕組みで、実際の電力ではなく再生可能エネルギー電力に含まれる「環境価値」を取引します。
実際の電力を取引しないという観点から、バーチャルPPA(=仮想の電力購入契約)と呼ばれています。

再エネ設備を導入せずとも再生可能エネルギーに切り替えることができるため、再エネ比率を高める上で費用対効果に優れた方法として、バーチャルPPAへの注目が高まっています。

日本では2022年から始まった新しい電力形態

海外では主流になりつつあるバーチャルPPAですが、日本においては新たな電力形態の一つです。

オンサイトでのフィジカルPPAなどを通し、追加性のある再エネの利用拡大を進めることで、新たな再エネ電源の普及拡大につながることを意味する「追加性」の対応を強化することが可能です。

これまでは需要家へ環境価値を供給するためには、小売電気事業者を介す必要がありました。しかし、2022年からは制度が変更し、一定の条件において直接供給することが可能となっています。
条件は以下の通りです。

  • 2022年度以降に営業運転開始する新設非FIT電源
  • 卒FIT電源
  • 新設FIP電源
  • 2022年度以降に営業運転開始したFIT電源がFIP電源に移行したもの

出典:第68回電力・ガス基本政策小委 制度検討作業部会(2022.7.14)資料4(27頁)

日本の大手企業も導入を進めており、2022年12月には株式会社リコーが導入を発表しています。

環境価値とは

再エネ電力のように、二酸化炭素を排出せずに発電された電力には、環境に優しいという価値が加わります。その価値を「環境価値」と言います。

環境価値は、再エネ電力を事業者から購入する際に再エネ電力証書という形で付与されるのが一般的です。「非化石証書」などがその例です。

そもそもPPAとは

PPAとは、「Power Purchase Agreement」の略で電力購入契約のことを指します。
発電事業者と電力を使用したい企業である需要家が、長期間の電力契約を直接結ぶ仕組みです。

中でも企業によるPPAを、コーポレートPPAと呼びます。
コーポレートPPAは、国民が負担するFIT制度に頼らず、需要家が主体となり電力を売却できる仕組みです。
FITに変わる運用方法の選択肢として注目されています。

バーチャルPPAとフィジカルPPAとの違い

コーポレートPPAは、オンサイトPPAとオフサイトPPAの2種類に分けることができます。

オフサイトPPAは、さらにバーチャルPPAとフィジカルPPAに分類することができ、フィジカルPPAは電力会社を通して直接電力を供給する点が大きな違いです。
さらに、発電事業者が需要家に提供する内容も異なります。

バーチャルPPAは環境価値のみ、フィジカルPPAは電力と環境価値を一緒に提供します。

 バーチャルPPAの特徴・仕組み

バーチャルPPAについて、その特徴、仕組みを詳しく解説していきます。

特徴

実際の電力の取引は行わず、環境価値のみ取引することが大きな特徴です。

金銭のみの取引であることから、「ファイナンシャルPPA」とも呼ばれます。

需要家が発電事業者に支払う金額が変動することも特徴の1つで、支払金額は固定価格と市場価格の差額を調整した額となります。
電力の取引を伴わないため、再エネにあまり詳しくない需要家が取り入れやすい方法と言えるでしょう。

仕組み

まず、発電事業者と需要家の間で契約を結び、再エネ電力の価格、売買に関して取り決めを行います。その後、発電事業者は電力会社などへ電力を販売することで収入を得ます。

発電事業者は需要家と共に、市場価格と契約した固定価格の差額を清算し、その差額を環境価値として取引を行います。

取引の内容としては、需要家が発電事業者から再エネ電力証書(非化石証書)を購入し、権利を得る形です。

バーチャルPPAのスキーム
バーチャルPPAのスキーム

バーチャルPPAのメリット

バーチャルPPAは、環境価値のみを購入することができるため、電力と切り分けて取引することが可能です。
そのことで、需要家にとってどのようなメリットがあるか、解説していきます。

1.再エネ比率アップが容易になる

長期的に環境価値を購入することで、容易に実質的な再エネ比率を高めることが可能です。

電気の購入方法は変えずに環境価値を取得できるため、太陽光発電設備の運用などを目的としていない企業にとっては、メリットが大きいと言えるでしょう。

2.コスト削減できる

フィジカルPPAや太陽光発電の運用などを行う場合、敷地の確保に関する費用、発電所や設備の設置費用、維持費などのコストがかかります。

バーチャルPPAの場合、それらの費用が不要となるため、環境価値のみを購入したい企業には大きなコスト削減につながります。
また、場所を問わずに発電コストが安い事業者と契約することもできるため、契約する事業者によってはコスト削減につながります。

3.企業の拠点にかかわらず再エネ電力の調達先が選べる

バーチャルPPAの場合、需要家の拠点内に再エネの供給元がなくても電力を購入することができます。そのため、企業が移転する場合も電力の調達先を変える必要がないため、安定して電力を確保できますし、環境価値を取得できます。

また、離れた場所の発電事業者とも契約が可能なことから、発電コストの低い地域や再生可能エネルギーが豊富な地域から購入することも可能です。

4.需要家(企業)に対する好感度アップ、ブランド力向上が期待できる

環境問題に対して、企業がどのような取り組みを行っているかを考慮する顧客も増えてきています。

フィジカルPPAなど他にも様々な取引手段がありますが、バーチャルPPAはオンライン取引であるという点からも、環境配慮への意識の高さをアピールできます。

結果として、好感度アップ、ブランド力向上、ESG投資の促進につながるでしょう。

5.需要家(企業)は長期間安定して環境価値を入手できる

バーチャルPPAによって、需要家は長期的に安定して環境価値を取得できます。

需要家はバーチャルPPAを利用しても、変わらずに電力会社から電力を購入するため、自社の事業において大きな影響がほぼない点も安心です。

6.発電事業者・需要家(企業)の両方にメリットがある

ここまで説明してきた通り、需要家は長期的に環境価値を入手できたり、コストを抑えられたりするメリットがあります。
また、発電事業者においても固定価格が確保できることから、投資に対しての回収目処が立てやすかったり、融資や出資が受けやすくなったりします。
さらに、新規発電所の建設を促進し、新たな事業へとつながることも期待できます。

バーチャルPPAのデメリット

バーチャルPPAのデメリットをご紹介いたします。

デリバティブ契約に該当する可能性があるため、企業は会計処理を整理する必要がある

会計処理上の課題は、バーチャルPPAが電力の購入をあらかじめ決めた金額で予約する仕組みであり、デリバティブ契約に該当する可能性があるため、企業は会計処理を整理する必要があります。
導入時には税理士や会計士との協議が不可欠となるでしょう。

太陽光発電設備の設置制約

太陽光発電設備を敷地内に設置できないため、バーチャルPPA利用者は設備を所有することができません。
自家消費を希望する人や契約期間終了後に設備を取得したい人にとってはデメリットです。
バーチャルPPAを導入する際には、設備の必要性や再生可能エネルギーの利用目的を明確にすることが重要です。

電力の売却ができない

バーチャルPPAを利用する企業が太陽光発電で発電した電力を売却することは難しく、主な目的は環境価値の取得になります。

 海外におけるバーチャルPPAの活用事例

海外においては主流になりつつあり、世界的に有名な大企業がバーチャルPPAを活用して環境保全に対する取り組みを行っています。

【事例1】二酸化炭素排出量削減のため、バーチャルPPAを導入。

→大手風力発電所、太陽光発電と長期の契約を締結するなど、1GW超の再エネ調達を成功。

【事例2】バーチャルPPAを活用し、再生可能エネルギーの使用量を増加、化石燃料の使用量を削減。

さらに、再エネ発電事業者に対して資金の供給を行い、このクレジットで一部事業の二酸化炭素排出量を相殺。

日本におけるバーチャルPPAの課題、実現に向けた取り組み

海外でバーチャルPPAが浸透する一方、日本では制度面の問題から導入が進んでいませんでした。
2022年からは制度の改正が行われ、導入の促進が期待されています。
バーチャルPPA普及にあたっての準備段階と言えるでしょう。

課題

日本における課題として、国に登録した小売電気事業者しか電力を個人や企業に対して販売できないという問題がありました。
その制度によって、バーチャルPPA導入が進まないということが大きな課題だったのです。

取り組み

これらの現状を踏まえ、電力小売り制度に対して見直しの声が上がり、2021年に制度改革を検討するという方向性が経済産業省の有識者会議で示されました。

制度変更により、2022年度以降は一定の条件を満たせば直接事業者との取引が可能となっています。

国内では非FIT再エネ証書についての仕組みができているため、それを活用する案が検討されており、日本においてもバーチャルPPA導入に向け着実に状況が進歩していると言えるでしょう。

まとめ

世界的に注目されている「バーチャルPPA」ですが、日本でも再生可能エネルギー電力の調達方法として普及が期待されています。

2022年からは制度も改正され、新しい電力形態としての活用も始まりました。

バーチャルPPAの導入は企業にとってもメリットが多いため、環境問題への取り組みを行いたいという企業は検討してみることをおすすめします。

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参考資料

REアクション推進協会 バーチャルPPAとは?再エネ比率を高めるバーチャルPPAの仕組み
NET ZORO NOW バーチャルPPAとは?フィジカルPPAとの違いやメリットを紹介
accel バーチャルPPAとは?特徴やメリット、海外での事例を紹介