カーボン・オフセットへの企業の取り組み事例7選|必要性やメリット、取り組み方法を解説

2024.07.31
ESGカーボンニュートラル再生可能エネルギー
カーボン・オフセット

カーボン・オフセットとは、経済活動によって排出される温室効果ガスについて、どうしても削減できない分を、別の方法で埋め合わせする考え方です。

本記事ではカーボン・オフセットに取り組みたい企業の担当者様に向けて、その必要性や課題、取り組み方法や実際の事例を解説しますので、ぜひお役立てください。

  カーボンニュートラルへ向けた、

企業が取るべき具体的アクションとは?

カーボン・オフセットとは

人間の経済活動や生活で排出された二酸化炭素などの温室効果ガスについて、どうしても削減できない分を、植林・森林保護・クリーンエネルギー事業(排出権購入)などで埋め合わせをする考え方を、【カーボン(=炭素)・オフセット(=埋め合わせる/相殺する)】といいます。

ただし、カーボン・オフセットは「自らが排出した温室効果ガスの量を認識すること」「排出量の削減努力をすること」の2点を前提とした考え方なので、安易に多用することは望ましくないとされています。

カーボン・ニュートラルとの違い

カーボン・オフセットと似た言葉に、カーボン・ニュートラルがあります。これは、経済活動などで排出する二酸化炭素量と、植林などの活動により吸収・削減する炭素量を均衡させて、実質ゼロの状態にすることを言います。炭素量を均衡させるカーボン・ニュートラルを実現するための1つの手段がカーボン・オフセットなのです。

2020年10月、菅総理大臣(当時)は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(カーボンニュートラルを実現させる)」と宣言しました。

企業におけるカーボン・オフセットの必要性

脱炭素社会に向けた取り組みは、業種や事業規模にかかわらず全企業が対応を迫られる事柄になっているのはなぜでしょうか?

企業のイメージアップになる   

パリ協定やSDGsの影響で環境問題に対する意識が世界中で強まっています。
近年では、地球環境に配慮する企業に資金が集まる「ESG投資」が増えており、消費者や株主も環境にやさしい商品やサービスを求める傾向が強くなっています。
カーボン・オフセットの導入はステークホルダーに対して強いメッセージとなるでしょう。

大手企業が取引先にも排出量削減を求める傾向にある

2021年5月に成立した「地球温暖化対策推進法の一部を改正する法律案」で、企業の二酸化炭素排出量の電子システムによる報告(=見える化)が義務付けられました。
これにより、グローバルに活躍する大手企業は、自社の取り組みだけではなく、サプライヤーにも二酸化炭素の排出量削減を要求してくるようになりました。

 企業におけるカーボン・オフセットまでの手順

実際にカーボン・オフセットを行う手順を説明していきます。

自社の排出量を把握する

まずは現状の二酸化炭素排出量を把握しましょう。環境省が提示している算定方法で求めることができます。

二酸化炭素排出量=活動量×排出源単価

活動量とは、電気の使用量や貨物の輸送量、廃棄物の処理量などのことです。
排出源単価とは、活動量あたりの二酸化炭素排出量を指します。なお業種特有の排出活動も確認しましょう。

可能な限り排出量を削減する

次に排出量の削減を行います。オフィスや工場の設備を省エネ化できないか?
使用している電源を再生可能エネルギーへ転換できないか?などアプローチしていきましょう。
オフィスや工場の屋上に太陽光パネルを設置して、電源の一部を自分たちで作ることも有効な手段のひとつです。

参考:静岡スマートファクトリー.com
   環境省_温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(Ver4.8) 第Ⅱ編 温室効果ガス排出量の算定方法(Ⅱ-11/15ページ)

    

カーボン・オフセットに取り組む

最後に自社努力ではどうしても削減できない排出量を算定しましょう。
ここでカーボン・オフセットの登場です。
植林・森林保護・クリーンエネルギー事業(排出権購入)など、他の場所での活動により削減・吸収された温室効果ガスは「クレジット」と呼ばれるものに変換され、市場取引できます。
このクレジットを購入し無効化することで、カーボン・オフセットが完了します。

企業におけるカーボン・オフセットの主な取り組み

平成27年施行、令和3年に改訂された「環境省カーボン・オフセット ガイドラインVer.2.0」では、企業の主な取り組みとして以下を紹介しています。

1.オフセット製品・サービス

製品を製造・販売したりサービスを提供する事業者が行う取り組みです。
製造、輸送、販売、使用、廃棄など製品やサービスのライフサイクルを通して排出される温室効果ガス排出量を、クレジット購入によりオフセットします

2. 会議やイベントによるオフセット

国際会議やコンサート・スポーツ大会などのイベント主催者が行う取り組みです。イベントの開催に伴って排出される温室効果ガス排出量を、クレジット購入によりオフセットします。

3. 自己活動オフセット

企業が行う取り組みです。ビジネス活動由来の温室効果ガス排出量を、クレジット購入によりオフセットします。これには、組織の事業活動やオフィスで使う電気・ガスの使用に伴って発生した二酸化炭素も対象となります。

4.クレジット付き製品・サービス

消費者のオフセットを事業者が支援する取り組みです。
}製品を製造・販売したりサービスを提供する事業者またはイベント主催者が、クレジット付きの製品やサービス・チケットを販売し、それを消費者が購入することで、消費者(=購入者)の日常生活で排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせます。

5.寄付型オフセット

製品を製造・販売したりサービスを提供する事業者またはイベント主催者が、消費者に対して寄付を募り、クレジットを購入しオフセットする取り組みです。
例えば、キャンペーンのアクセス数に応じてクレジット購入・無効化するなどが挙げられます。
地球温暖化防止活動への貢献や資金提供に興味のある顧客と、企業がコミュニケーションを取りながら行う活動です。

6.非化石証書を利用したオフセット

石油や石炭などの化石燃料を使わず発電した再生可能エネルギーなどの「非化石電源」が持つ「非化石価値」を証書化したものを「非化石証書」といいます。非化石証書は2018年より市場取引が可能になりました。

非化石電源を使い電気を作る発電事業者が非化石証書を販売し、小売電気事業者がこれを購入することでオフセットする取り組みです。

企業におけるカーボン・オフセットの課題

温室効果ガスの削減に向け救世主のような制度ですが、カーボン・オフセットには課題もあります。

温室効果ガスの排出量削減努力を怠る可能性がある

カーボン・オフセットを乱用すると、実際には大量の温室効果ガスを排出している企業でも、クレジットさえ購入すれば、見かけ上の排出量を抑えることが可能となります。場合によってはクレジットがあることで、企業が気候変動対策をしない口実となるリスクがあります。

温室効果ガス排出量の算定方法が定められていない

カーボン・オフセットの手順で、温室効果ガス排出量の算定方法をご紹介しましたが、実は他にも「原油換算による計算」「二酸化炭素換算による計算」「電気使用による計算」という算定方法があるのです。算定方法により排出量が異なるため、公平性に欠けるというリスクもあります。

企業におけるカーボン・オフセットの取り組み事例

実際にはどんな事業者が取り組みに参加しているのでしょうか。参考となるアイデアをたくさんご紹介します。

キヤノン株式会社

大手精密機器メーカーのキャノンは、温室効果ガス排出量の「見える化」を徹底し、環境配慮技術を用いた複合機を製造しています。
製造過程で削減しきれない二酸化炭素量に応じてクレジットを購入し、当該製品においてカーボン・ニュートラル(排出量の実質ゼロ)を実現しています。
また、国が実施する制度を積極的に活用し削減に力を入れています。

コベルコ建機株式会社

大手建設機械メーカーのコベルコ建機は、森林所有者からクレジットを購入しそのクレジットを付けた林業機械(チェーンソーなど)を販売、林業機械の購入者は、機械の稼動で生まれる温室効果ガスの一部をカーボン・オフセットできる仕組みです。
林業機械の購入者はクレジット購入先を指定できるため、希望する地域の森林整備に貢献できます。
森林所有者はクレジットの売却益を森林整備に回すことができ、林業のエコサイクルが生まれるこの取り組みは、第5回カーボン・オフセット大賞農林水産大臣賞を受賞しました。

Zホールディングス株式会社

フーを前身とし、ソフトバンクグループと韓国ネイバー社の合弁会社であるZホールディングスは、LINEやPayPay、アスクルや出前館など多数の子会社を持つ情報・通信企業です。
同社は2022年2月、グループ全社の温室効果ガス排出量を2030年度までに実質ゼロにする「2030カーボンニュートラル宣言」を発表しました。
まずは2025年までに80%以上を再生可能エネルギーに切り替える方針です。また、取引先評価基準に「環境への配慮」という項目を設けています。

株式会社ファミリーマート

大手コンビニチェーンを展開するファミリーマートは、1999年3月に環境配慮型のプライベートブランド「We Love Green」を立ち上げました。
2009年にはこのブランドを活用しインドの水力発電プロジェクトからクレジットを買い取り、カーボン・オフセットを行いました。買い取ったクレジットは日本政府へ譲渡したそうです。

参照:株式会社ファミリーマート

ミドリ安全株式会社

安全靴やヘルメットなどの工業用品を製造するミドリ安全は、1着につき3kgの温室効果ガス削減に貢献できる、カーボン・オフセットユニフォームを販売しています。
その他、ライフサイクルを通じて環境負荷の少ないエコマーク取得商品を多数展開しており、商品を購入することで、気候変動対策に関わることができます。

株式会社イトーキ

オフィス家具の老舗メーカーであるイトーキは、製品の資源調達から消費・処理・処分までのライフサイクル全体におけるカーボン・オフセットを完了した、オフィス用チェアを販売しています。
製造過程における温室効果ガスの排出量算定を進めており、今後も環境配慮型の製品を増やしていく予定です。また、このノウハウを活かしクレジットのプロバイダーとして、カーボン・オフセットを導入したい企業の相談や支援も行っています。

花王株式会社

大手消費財メーカーである花王は、2016年から始まった電力の小売自由化に合わせ、二酸化炭素排出量が少ない電力への切り替えに着手しました。
大量に電力を使う工場では、市場流通量の多い非化石証書が有効な手段だと判断し、愛媛工場を非化石証書を活用した電力に切り替えました。同工場では太陽光発電設備も導入し、電力の再エネ化を推進しています。

まとめ

温室効果ガス排出量を削減する動きは世界中で加速しており、企業が取り組むべき課題として広く認知されるようになりました。
その中で、企業努力では削減できない部分を補うカーボン・オフセットは、今後ますます重要視されることでしょう。

弊社ホールエナジーでは、再生エネルギー導入のお手伝いをさせていただいております。非化石証書購入代行コーポレートPPA導入のご支援もおこなっておりまので、
カーボンニュートラルに向けてお困りの方や、情報を求めている方はお気軽にお問い合わせください。

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参考資料

環境省 カーボン・オフセット
農林水産省 カーボン・オフセットの事例
資源エネルギー庁 「非化石証書」を利用して、自社のCO2削減に役立てる先進企業
外務省 日本の排出削減目標