【電力比較】太陽光発電と火力発電の発電コストについて
先日8月5日、経済産業省の発電コスト検証ワーキンググループより、
発電コスト検証に関する取りまとめ(案)が発表されました。※1
今回の検証にはモデルプラント方式が採用されています。
これは、国内で実際に建設された代表的な設備の諸費用の平均値を用い、
典型的な発電設備を「モデルプラント」として試算を行います。
こうしたモデルプラントに基づく発電コスト試算は国際的に確立した手法であり、
英国や米国などの主要各国でも使われています。
実際に試算に使う式は上図で、その設備の建設から運転、燃料の調達などの総費用を、
総発電電力量で割ることで1kWh当たりの発電コストを算出しています。
また、将来の発電コストを算出する場合の共通の手法として、それぞれの費用を2020年の実績値から割り出し、
それが2030年までどのように推移するのか計算することにより、発電コスト予測としています。
ではここからは、太陽光・石炭火力の2つについて、2030年の発電コストがどのように算出されているのか見ていきましょう。
太陽光発電
太陽光発電は大きく分けて「住宅用」「事業用」に分類されますが、今回は「事業用」について考えていきます。
資本費
建設費、固定資産税、設備廃棄費用の合計となります。
このうち、固定資産税と設備廃棄費用については建設費によらず大きな変化はないとしています。※2
建設費についても、2020年からコスト低下が見込めるのは設備費のみとしており、
世界での導入量が倍増するごとにコストは20%低下すると想定した習熟曲線を用いて試算しています。
また、習熟曲線で用いる導入量の見通しはIEAのStated Policy Scenarioを参照しています。
これを元に算出した結果、設備費については2020年に比べ、
約27.7%低減するとしています。※1
設備費以外の建設費(工事費等)については、低下が進んでいたものの足下では上昇傾向にあり、
労務費単価が上昇していることや、比較的低コストで発電所を建設できる適地が減少している可能性も考慮し、
変化せず一定であるとしています。
運転維持費
定期報告から得られたデータでは経年的な傾向があまり確認できないことから、変化せず一定としています。
燃料費
太陽光により発電を行うため、0円で一定となります。
社会的費用
ここでは、IRR相当政策経費が下がっております。
これは「固定価格買取制度の調達価格の優遇された利潤相当分を計上する」とあり、
FIT制度によって買い取った金額の分、つまり再エネ賦課金に相当します。
2030年にはFIT制度の期間を終える卒FIT電源や、FIT制度を利用しない非FIT電源が増えるという見込みで、
この項目はコスト減するとしています。
これらを元に試算を行った結果、以下の図のような形で発電コストが下がるということになります。
石炭火力発電
資本費、運転維持費
これらについては、2030年に向けて技術が注がれる見込みが薄いため、2030年もコストは据え置きとしています。
燃料費
発電の燃料としての石炭の価格ですが、これは世界エネルギー見通し2020年版(WEO2020)を参考としています。※4
これを日本での実際の石炭価格で補正するのですが、
1kWhあたりの価格は2020年と2030年とでほとんど変化はないとしています。
社会的費用
火力発電における社会的費用は、CO2対策費用が主になります。
この費用の算出においては、WEO2020にて示されたCO2価格にてCO2排出権を購入すると仮定しております。
この場合、2030年の1kWhあたりのCO2対策費用は2020年に比べて約1.3倍程度上昇する結果となります。
これ以外の政策経費については、2019年度の予算総額を年間総発電電力量で割った値としています。
今回の試算では、予算額が変わらず、総発電量は減ると仮定しているため、この経費は微増するとしています。
これらの試算により、石炭火力ではCO2対策費用の上昇により発電コスト全体が上昇するという予測となっています。
各発電コストの妥当性
さて、ここまで各発電コストの算出式について見てきましたが、これらは本当に実現可能性があるのでしょうか。
ここからはこれらのコストの実現性について、考えていきます。
太陽光発電
電力は、生産と消費が常に同じ量でなければなりません。(同時同量)
太陽光発電で同時同量を達成するには、昼間発電した余剰電力を溜めておく「畜電池」が必要不可欠ですが、
今回の試算にこれらは含まれておりません。
2019年時点での業務・産業用蓄電システムの価格水準は9.8万円/kWhと、
調達コストを押し上げる要因となってしまいます。※5
また、この同時同量の達成のため、足りない電力を火力発電など送電網全体で補うとします。
その場合、系統安定化費用といって、変動制のある自然エネルギーの変動分を吸収するためのコストがかかります。
今回の試算では、エネルギーミックスがない限り正確な予想ができないことから、
この系統安定化費用も考慮しないとしています。※6
このように、今回の試算では太陽光発電で天候や時間帯、地域による変動性を考慮していないため、
実際の発電コストはもっと高くなると考えられます。
石炭火力発電
火力発電についても同様で、今後再生可能エネルギーの導入が増える場合、系統安定化費用も今より増えていくと考えられます。
この増加分については試算に含まれていないため、コストもこれより高くなると考えられます。
また、CO2排出枠の購入の部分についても、日本国内で排出枠取引(炭素税、カーボンプライシング)は導入されておらず、
これが導入されれば調達費用は想定より大きく上がる可能性があります。
参考までに、EUでの排出権取引価格(EUA)の推移を示します。
このように、一時は下がっているものの、ここ数年では想定を超える上昇を見せています。
さて、ここまでをまとめると、今回の試算は必要な要素を全て考慮に入れているわけではないということになります。
とはいえ、中には予測が困難なものが多く、それを全て織り込むには途方もない時間がかかってしまうため、仕方ないといえば仕方ないのかもしれません。
今後の対応の方向性
では、これらを受け、目下どのような対応が必要なのでしょうか。
結論から言うと、会社ごとに最適な調達を行うことが大事になってきます。
現在、単純に調達費用を抑えるためなら火力発電を選ぶのがいいですが、
炭素税の導入を考えると今後コストが大きく上昇する可能性があります。
かと言って全てを太陽光発電で賄うとなると蓄電池のコストがネックとなってきます。
これらを考慮しつつ、それぞれどのくらいの割合で調達するのか。
はたまた電力に証書を付加し、実質再エネを実現して炭素税がかからないようにするのか。
その最適解は各々の電気の使い方によって変わってきます。
情報の取捨選択をし、自社での方針を固め、最適な会社選びをすることが今後特に求められるようになるのです。
まとめ
多少の条件の不足はあれど、太陽光発電のコストがここまで低くなったのは、
それだけ国内の脱炭素への動きが活発化している証拠です。
2050年のカーボンニュートラル実現へ向け、非常に期待が持てる試算結果であります。
経済産業省は近く、総発電量に占める各電源の割合を示した「電源構成」を策定する予定です。
その際には、今回の試算で考慮されなかった「系統安定化費用」を取り入れ、試算を示す方針とのことです。
今回最も安価なのは太陽光発電でしたが、こちらを考慮した結果どのようになるのか、注目していきたいところです。
弊社ホールエナジーでは、細かいパターンにも対応しつつ、お客様に最適な調達方法をご提案することができます。
このような政府の発表を受け、自社の調達比率が本当に最適なのか、気になったならぜひお気軽にお問い合わせください。
参考資料
※1:発電コスト検証に関する取りまとめ(案) 2021年8月3日 経済産業省
※2:太陽光発電設備の廃棄等費用の積立てを担保する制度に関する詳細検討④ 2020年10月19日 経済産業省
※3:長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告 2019年5月 経済産業省
※4:Outlook for fuel supply – World Energy Outlook 2020 2020年10月 国際エネルギー機関
※5:蓄電システムをめぐる現状認識 2020年11月19日 株式会社三菱総合研究所
※6:系統安定化費用について 2021年4月20日 経済産業省